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東京高等裁判所 平成6年(ネ)5408号 判決

主文

一  原判決主文1項及び2項を取り消す。

二  第一次請求に基づき、

1  第一審被告は、別紙標章第三ないし標章第七目録記載の各標章及び「柿茶」という表示を柿の葉の茶(その粉末状のものを含む。以下同じ。)及びその容器、包装、宣伝用カタログ、広告に使用し、又は別紙標章第三ないし標章第七目録記載の各標章及び「柿茶」という表示を付した柿の葉の茶を販売し、販売のために展示してはならない。

2  第一審被告は、その所持にかかる別紙標章第三ないし標章第七目録記載の各標章を付した1項記載の柿の葉の茶の容器、包装、宣伝用カタログを廃棄せよ。

三  第一審原告のその余の控訴、及び、当審において追加した第三次請求に基づく謝罪広告掲載請求を棄却する。

四  第一審被告の本件控訴を棄却する。

五  訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを三分し、その一を第一審原告の、その余を第一審被告の負担とする。

理由

第一  第一次請求について

一  請求原因一1(第一審原告会社の目的、本件登録商標の態様)、同2(第一審被告会社の目的、第一審被告標章の態様、事業内容)は、当事者間に争いがない。

二  請求原因一3(本件登録商標と第一審被告登録商標の類否)について判断する。

1  本件第一商標の構成は、別紙第一目録記載のとおり、上部約三分の二の略正方形の部分には、橙色の地色の上に、葉柄を左下に葉先を右上に黄緑色の一枚の柿の葉の大きな図柄が描かれ、その下部三分の一弱の横長長方形の部分には、黄緑色の地色の上に、上部約五分の四にわたる大きさで、「柿茶」の横書き文字が黒色で描かれ、その下部に約五分の一程度の大きさで、「アスコルビン素 ビタミンC」の横書き文字が橙色で描かれたものであり、本件第二商標の構成は、別紙第二目録記載のとおり、右同様の柿の葉の大きな図柄の下方の下部三分の一弱の横長長方形の部分には、黄緑色の地色の上に、中央やや下部に大きく「KAKI-CHA」の横書き文字が黒色で描かれ、その上部に小さく「ascorbin-so vitaminC」の横書き文字が橙色で描かれたものである。

2  本件第一商標及び本件第二商標は、前記認定の構成よりなる図形と文字の結合商標であり、上部約三分の二に表された一枚の柿の葉の図形と下部約三分の一の横長長方形部分に大きく表された「柿茶」又は「KAKI-CHA」の文字が当該標章の支配的部分を占めているから、この標章が商品に付された場合、取引者、需要者はこの図形と文字部分を観察して商品の出所を認識するものであるところ、標章を構成する文字部分が商品の普通名称あるいは商品の原料、種類等を表すときは、その部分には自他商品の識別力は生じないというべきである。

そこで、本件第一商標に表された「柿茶」及び本件第二商標に表された「KAKI-CHA」の文字部分から自他商品の識別力を生じるかについて、検討する。

(一) 《証拠略》によれば、以下の事実を認めることができ(る。)《証拠判断略》

(1) 訴外西勝造は、独自の健康法としていわゆる「西式健康法」を創始し、ビタミンCの重要性を唱え、その供給源として柿の葉を蒸して後乾燥して湯を注ぎ茶として飲む飲料を研究開発した。それまでは、このような飲料は一般的には人に知られていなかった。

(2) 訴外井上信夫は、西勝造の指導を受けて、西勝造と共にこの柿の葉の茶の研究開発にあたり、昭和二六年頃から「生化学研究所」の屋号で、柿の葉の茶に「柿茶」の表示を付して製造販売を始めた。

(右製造販売当初から柿の葉の図形と「柿茶」の文字が結合して用いられていたかは証拠上明らかでない。)

(3) 井上信夫は、右の個人事業を承継するため、昭和三三年六月有限会社として第一審原告を設立し、第一審原告は、以後も右「柿茶」の表示を付した柿の葉の茶の製造販売を継続した。

(4) 昭和二六年当時においては、健康食品に関心を持つ者は少なく、柿の葉の茶が健康食品としてマスコミや一般の業者に関心を持たれたこともなく、その頃柿の葉の茶を製造販売していた業者は生化学研究所以外には見当たらなかった。したがって、第一審原告が昭和二六年に柿の葉の茶に「柿茶」の名称を使用したのが、「柿茶」という名称が商品に使用された初めてのことであった。

(5) 井上信夫は、「柿茶」の製造販売を始めると同時に、西勝造が創刊した月刊雑誌「西医学」に広告を掲載し、西式健康法の推奨する薬品、健康食品を扱う東京都所在の西会本部や各地の西会支部、薬局で「柿茶」の表示を付した柿の葉の茶を販売した。

(6) 西勝造は、昭和三三年一〇月二日名称を「柿茶製造装置」とする特許を出願し、昭和三六年特許権の設定登録(第二八三九四号、同特許出願公告第二一五〇号公報)がなされた。

(7) 昭和四三年七月一日株式会社主婦の友社発行の月刊誌「主婦の友」七月号の記事において、肝臓病を克服した女性が愛用していた柿の葉の茶として、第一審原告の製造販売した「柿茶」が紹介されたことから、第一審原告が主婦の友社通信販売部から引合いを受け、これを機に、第一審原告は、同社の通信販売を通じて柿の葉の図形と「柿茶」の文字からなる標章を付した柿の葉の茶の全国的な販売を開始し、月刊誌「主婦の友」に昭和四三年八月号以来、同社発行の「わたしの健康」にも昭和五一年一〇月の同誌創刊以来、それぞれ通信販売広告欄で第一審原告の「柿茶」を宣伝広告し、主婦の友社通信販売部を通じて商品である「柿茶」の販売を行ってきた。

(8) 第一審原告は、株式会社講談社発行の月刊誌「壮快」にも、昭和五〇年六月号から今日まで、「柿茶」等自社製品の広告を掲載している。

(9) 第一審原告は、昭和四八年九月三日本件登録商標の登録を出願し、昭和五三年一月一〇日これが登録された。

(10) 昭和五一年頃から、第一審原告以外の業者が柿の葉の茶に「柿茶」の標章を付して販売することが見受けられるようになり、第一審原告は、これを知る都度、当該製造販売業者に対し、「柿茶」の標章の使用を中止するよう申し入れ、殆どの業者はこれに従い、「柿の葉茶」、「かき茶」、「かきの葉茶」等の標章に変更した。

また、第一審原告は、一般刊行物、本、パンフレット等で「柿茶」の名称を使用している者がある場合にも、使用を中止するように申入れをし、発行者や著者もこれに応じていた。

(11) 現在では、係争中である第一審被告を除いて、第一審原告以外により柿の葉の茶の商品に付される標章には、「えんめい かきのは茶」、「五木 柿葉茶」、「柿の葉茶」、「蒸製 茶類 かき葉」、「蒸製 食品 かき葉」、「RIKEN かきの葉」等が使用されており、第一審原告の「柿茶」あるいは「KAKI-CHA」外の文字と柿の葉の図柄が一体となった標章は、取引者、需要者において第一審原告の製造販売する柿の葉の茶を示すものとして認識されるに至っている。

(二) 以上認定の事実からすると、第一審原告代表者の先代の井上信夫は、昭和二六年頃それまで商品として存在していなかった柿の葉の茶を研究し、これを蒸して後乾燥した商品を開発し、「柿茶」の名称を付して販売を開始し、引き続き第一審原告において長年にわたって継続して使用してきた(少なくとも昭和四三年頃には、その商品には柿の葉の図形と「柿茶」の文字からなる標章が使用されていた。)ものであり、取引者、需要者において、柿の葉の図形と「柿茶」あるいは「KAKI-CHA」の文字部分が結合した本件登録商標をみれば、第一審原告の製造販売する柿の葉の茶の商品に付した標章と認識してきたものである。

したがって、「柿茶」の名称をもって、商品の普通名称あるいは商品の原料、種類等を表すものということはできず、本件登録商標中の「柿茶」あるいは柿茶と同一の称呼、観念を有する「KAKI-CHA」の文字部分は、柿の葉の図形とともに自他商品の識別力を有するというべきである。

この点について、第一審被告は、「柿茶」という名称は、単に商品の原材料ないし品質を示すものであり、普通名称であって、自他商品識別機能を有しないと主張する。

たしかに、「茶」の語は、「樹木の一種である茶の木。木の葉に、蒸す、焙る等の加工をして作った飲物の原料となるもの。上記の原料に湯を注いで成分を浸出させた飲物」の意味を有すること、他方、麦茶、昆布茶、玄米茶、朝鮮人参茶、クコ茶、ハブ茶等、本来の意味から転じて、「茶の木以外の植物の葉、実等に加工して作った飲物の原料となるもの。上記の原料に湯を注いで成分を浸出させた飲物」の意味を有することは当裁判所に顕著であり、「柿茶」も、このような「茶」の意味から、柿の葉、柿の実等を加工して作った飲物の原料、又は、その原料に湯を注ぐ、煮出す等して成分を浸出させる飲物を想起させるということができる。

しかしながら、「柿茶」という名称は、前示認定のとおり、第一審原告代表者の先代が柿の葉の茶について使用したのに始まって、引き続き第一審原告が柿の葉の茶について使用してきており、取引界においては、「柿茶」あるいは「KAKI-CHA」の文字と柿の葉の図柄が一体となった本件登録商標をみれば、第一審原告が柿の葉の茶に付して使用している標章であると認識されるに至ったと認めることができるのであるから、このような場合は、「柿茶」あるいは「KAKI-CHA」の文字を含む本件登録商標は、自他商品識別機能を有するといい得るものである。

もっとも、《証拠略》によれば、昭和四九年一二月一六日にNHK総合テレビで放映された佐賀大学農学部教授村田晃、福岡鳥飼病院外科部長森重福美らを出演者とする番組「話題の窓 見直されるビタミンC」において、柿の葉の茶を指す語として「柿茶」が使用されていること、《証拠略》によれば、昭和五九年六月二〇日株式会社東洋医学舎発行の「健康食品事典八四年版」において「カキ茶」の語が、《証拠略》によれば、昭和五二年五月二五日共立出版株式会社発行のL・ポーリング著、村田晃訳の書籍「ビタミンCとかぜ、インフルエンザ」の訳者のあとがきにおいて、「柿茶」の語が、《証拠略》によれば、昭和五二年一一月六日発行の新聞「日刊ゲンダイ」掲載の「医者も薬もいらない家庭でできる食事健康法」の記事において「カキ茶」、「かき茶」の語が、《証拠略》によれば、昭和五三年発行の中村学園研究紀要第一一号掲載の楠喜久枝外二名著「柿の葉の研究(第1報)」と題する研究論文の記載において「柿茶」の語が、それぞれ柿の葉の茶を指す語として使用されていることが認められる。

しかしながら、《証拠略》によれば、村田晃は、前記「ビタミンCとかぜ、インフルエンザ」の昭和五二年八月一〇日発行初版第五刷においては、初版第一刷の訳者のあとがきの「日本茶ないしビタミンC含量の高い柿茶などが勧められる」との表現を「日本茶ないしビタミンC含量の高い柿の葉茶などが勧められる」と改めており、《証拠略》によれば、その後に村田晃が木本英治、森重福美との共著で出版したL・ポーリング、E・キャメロン共著「がんとビタミンC」(昭和五六年二月一〇日共立出版株式会社発行)の翻訳書の「補遺(訳者)」においても「日本茶ないしビタミンCの多い柿の葉茶が勧められる」と記述しており、《証拠略》によれば、昭和五五年九月一〇日発行の「四国西会誌」という会誌において、「柿茶」について、「正確には柿の葉っぱで作ったお茶といわなくてはなりません」と述べていることが認められる。

このように、昭和四九年一二月一六日にNHK総合テレビで放映された村田晃らを出演者とする番組において柿の葉の茶を指す語として「柿茶」の語が使用されたとしても、村田晃も森重福美も前示のとおり、その後の書籍においては「柿茶」の語を使わず「柿の葉茶」という語を使用しており、《証拠略》によれば、昭和五六年発行の週刊誌「女性セブン」の「L・ポーリング博士の発表で話題騒然!ビタミンCはがんを撃退そして予防」と題する記事の中で、森重福美は、「柿の葉茶」との表現を使用していることが認められ、このように、右NHKの番組放映後は、村田晃も森重福美も、その後に出版された書籍、雑誌等において「柿茶」を柿の葉の茶と区別して表現しており、「柿茶」の語を普通名詞として取り扱っていないことが認められる。

さらに、楠喜久枝外二名著「柿の葉の研究(第1報)」と題する研究論文において、「柿茶」の語が使用されていることについても、《証拠略》によれば、同論文は、西勝造著「西医学健康原理実践宝典」を参考文献としていることが認められるから、著者の西勝造が使用した「柿茶」の語をそのまま論文中に引用した結果であると推測され、なお、《証拠略》によれば、同論文の代表的筆者であると認められる楠喜久枝は、平成四年七月号雑誌「壮快」での「豊富なビタミンCが含まれている柿の葉を使ったとてもおいしい簡単料理」の中で、「柿茶」の語を使用せず、「柿の葉のお茶」、「柿の葉茶」という語を使用していることが認められる。

また、《証拠略》によれば、岩淵亮順著昭和五二年三月二八日株式会社六興出版「柿の薬効」の著書に「柿茶(アスコルビン素)の薬効」として「柿茶」の語が使用されていることが認められるけれども、《証拠略》によれば、これに対し第一審原告は、昭和五二年五月三〇日付けの書面で「柿茶」の文字と使用について注意を促し、同人もこれを了承したことが認められる。

この他、《証拠略》によれば、小沢王晃著昭和三七年八月一〇日東京美容科学研究所発行「柿の葉っぱ」の著書に「柿茶の話」として「柿茶」の語が使用されていることが認められるけれども、《証拠略》によれば、小沢王晃は、第一審被告会社代表者の先代であることが認められ、同人がこの時期に右語を使用したことをもって、「柿茶」が普通名詞であると認めるに至らないというべきである。

また、《証拠略》によれば、丸成商事株式会社が商品の包装袋に「柿茶」の標章を付していることが認められるけれども、これは、その製造年月日からして平成七年二月一三日という極く最近のものであって、これをもって、にわかに前示認定を覆しえない。

他に、本件全証拠によるも前示認定を覆すに至らないというべきである。

そして、以上認定の諸事実に、成立に争いのない甲第六一号(昭和六〇年九月一五日株式会社食品と科学社発行「健康食品便覧」)、同第六二号証(平成二年六月二〇日株式会社健康産業流通新聞社発行「健康産業名鑑」)、同第七三号証(平成五年六月二〇日株式会社主婦と生活社発行「食べて治す医学大事典」)、同第七四号証(平成五年一月二〇日有楽出版社発行、小原田泰久著「病気にかつ健康茶大百科」)同第八五号証(平成三年三月一〇日株式会社主婦と生活社発行「カラー百科家庭の医学」)によれば、これら健康食品に関する事典類では、いずれも柿の葉を蒸して後乾燥した茶を「柿の葉茶」と記載し、このうち「健康食品便覧」、「健康産業名鑑」では、第一審原告製品の商品名を「柿茶」と記載していることが認められることを総合すると、商品としての柿の葉を蒸して後乾燥した茶の普通名称は、「柿の葉茶」であって、「柿茶」なる名称は、第一審原告の製造販売する柿の葉茶の商品名として取引者、需要者に認識されていることが明らかであり、第一審被告の前記主張は採用することができない。

3(一)  ところで、第一審原告が権利を有する本件登録商標は、前記2認定のとおり、「柿茶」又は「KAKI-CHA」の文字と柿の葉を模した図形とが要部であると解されるところ、その図形部分からは特に特定の称呼を生じ難いものであるのに対し、顕著に表わされた「柿茶」あるいは「KAKI-CHA」の文字部分は、親しみ易く理解し易いものであるから、取引者、需要者は、該文字部分を捉えて「カキチャ」の称呼をもって取引することが認められる。

第一審被告は、本件登録商標は、あくまで図形を含めた構成要素全部が一体となって結合しているもので、この種登録商標は、全体をそのまま引き写すような商標使用のみが商標法上の排除効を持つ旨主張するが、図形を含む商標であっても、その一部である文字部分から称呼、観念の生ずる場合があり、本件登録商標はその場合に該当するといえるから、その主張は採用することができない。

(二)  これに対し、第一審被告が第一審被告商品に使用している標章は、「京の柿茶」又は「KYO NO KAKICHA」若しくは「きょうのかきちゃ」の文字からなるものであるところ、「京の」及び「KYO NO」並びに「きょうの」の部分は、商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示しているにすぎないと認められるから、第一審被告標章の要部は、いずれも「柿茶」又は「KAKICHA」あるいは「かきちゃ」の部分にあり、取引の際には、「カキチャ」の称呼をもって取引されるものと認められる。

そうすると、第一審原告の本件登録商標と第一審被告標章とは、称呼において同一であり、第一審被告標章は、いずれも本件登録商標に類似するから、第一審被告の右標章の使用行為は、第一審原告の有する本件商標権を侵害するというべきである。

(三)  《証拠略》によれば、第一審被告は、柿の葉を製茶してドリンク剤とした製品を製造販売しており、その製品には「柿茶」の表示を用いていることが認められ、その使用形態からみて、「柿茶」の名称は第一審被告製品の出所を表すものとして使用されているというべきである。そして、柿の葉茶に「柿茶」の名称を標章として使用することは、第一審原告の有する本件商標権を侵害するものであることは、前記(二)において判断したとおりである。

三  第一審被告は、第一審原告の本件商標権侵害を理由とする本訴請求は、権利の濫用であって許されない旨主張する。

《証拠略》によれば、第一審原告は、昭和五三年頃から雑誌に掲載する広告中に「柿茶」は第一審原告の登録商標である旨を記載するようになり、また、昭和五二年頃以降「柿茶」の語を書籍等の中で普通名称として使用した者に対し、「柿茶」は第一審原告の登録商標である旨注意、警告する文書を送付していることが認められる。

この点につき、第一審原告が商標権を有する本件第一商標は、「柿茶」の文字を含むけれども、他の文字及び図形との結合商標であって、そのような構成のものとして商標法三条二項の適用を受けたものであり、「柿茶」の文字部分のみが登録商標となっているわけではないから、前記のような広告中の記載や注意、警告は、「柿茶」の文字からなる商標が登録商標であるかのような表現である点で正確ではないといわざるを得ない。

しかしながら、前判示のとおり、本件登録商標からは「カキチャ」の称呼が生ずるものであり、取引者、需要者は第一審原告製品の商品名を「カキチャ」と称呼している等前記認定の諸般の事情をも考慮すると、右事実があるからといって、第一審原告が第一審被告に対し、本訴請求により第一審被告標章の差止め等を求めることが権利の濫用であるとはいえず、第一審被告の主張は採用することができない。

四1  以上により、第一審原告は第一審被告に対し、商標法三六条一項により、第一審被告標章及び「柿茶」という表示を柿の葉の茶及びその容器、包装、宣伝用カタログ、広告に使用し、又は第一審被告標章及び「柿茶」という表示を付した柿の葉の茶を販売し、販売のために展示することの差止めを求めることができ、同条二項により、第一審被告標章を付した柿の葉の茶の容器、包装、宣伝用カタログの廃棄を求めることができるというべきである。

2  第一審原告は、さらに信用回復の措置として別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告の掲載を請求する。

しかしながら、第一審被告の前記行為により、第一審原告において前示差止め及び廃棄を求めるほか、さらに業務上の信用を回復する措置として謝罪広告によらなければ回復できないほどの損害を受けたとは、本件全証拠によるも認めるに至らない。

よって、第一審原告の第一審被告に対する商標法三九条、特許法一〇六条に基づく謝罪広告を求める請求は、認めることができない。

第二  第二次、第三次請求に基づく謝罪広告掲載請求について

第一審原告は、第一審被告に対し、予備的に、不正競争防止法二条一項一号、一〇号該当を主張して、右商標権に基づくと同様の請求をするところ、同法七条による信用回復の措置については、第一項四2判示のとおりの理由で、第二次、第三次請求に基づいても、これを認めることはできない(第二次、第三次請求に基づく差止め及び廃棄の請求については、第一次請求を認容したから、判断の必要がない。)。

第三  結論

以上によれば、第一審原告の第一次請求のうち、商標法三六条一項、二項に基づく差止め及び廃棄請求(当審において一部請求を拡張した部分を含む。)は、正当であるからこれを認容すべきであり、第一次ないし第三次請求に基づく謝罪広告掲載請求は失当として棄却すべきところ、原判決中、第一次請求に基づく右差止め及び廃棄請求を失当として棄却し、第三次請求に基づいてこれを認容した主文1項及び2項は、相当でないからこれを取り消し、第一次請求に基づく右差止め及び廃棄請求を認容し、第一審原告のその余の控訴及び当審において追加した第三次請求に基づく謝罪広告掲載請求を棄却し、第一審被告の本件控訴は、理由がないからこれを棄却し、本判決主文一項1、2について仮執行の宣言は相当でないから付さないこととし、民事訴訟法三八四条、三八六条、九六条、九二条、八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田 稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)

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